恋はとなりに

ホームにいると、コウタが走ってやってきた。


息きらしてる。


「一緒に帰ろう。」


「うん。」

あたしは快く返事した。



「アニキ帰ってきたよ。」

「知ってる。」



「あたしもうカケル君に恋するのやめたの。」

「知ってる。」


「なんで知ってるの?」


「話してるの聞いたから。」


「立ち聞きしてたの?」

「ちげーよ。窓開けてたら聞こえてきたの。」


コウタの話に納得してうつむいた。

田舎だから静かで、本当によく聞こえるのだ。

「ねぇ、あたしのこと避けてたの?」

「避けてない。」


コウタとちゃんと話すのは夏以来。

あれからコウタは、会ってもそっけない挨拶してすぐ去っていく。


あたしも、特別話しかけたりしなかった。

なのであたしたちの距離はあいていた、ように思うのだけど。


コウタは今あたしの隣にいる。

なんで?


「そういえば、友達は?カラオケ途中じゃないの?」


「うん、さくらに会うの久しぶりだったから、途中で帰ってきたよ。」

コウタはさらりとそういうことを言う。

ぶっきらぼうなのに、へんな奴。


「隣に住んでるんだからいつでも会えるのに。変なコウタ。」

あたしは言葉を失った。
コウタのペースにいまいちついていけない。

「そういうのと違うじゃん。」

電車に揺られ、ガラガラの車内。


1人分の席をあけて隣に座るコウタが、突然間を詰めてきた。

そしてあたしの右手をつかんだ。

コウタの手は大きい。

「な、   なに?!」


あたしは大きめの声で聞いた。


「なあ、俺たち付き合わない?」


コウタはサラッと言った。

「え?  付き合うって。」

「アニキのことやめたんなら、いいじゃん。 さっき一緒にいたあいつ、彼氏?」


「彼氏じゃないけど、 急にそんなこと言われても。」

コウタはあたしの手を握ったまま。あたしも抵抗できずにいたら、貝殻つなぎになっていた。

私の人生初めての貝殻つなぎ。憧れていたシチュエーションとはほど遠い。現実はこういうものだ。
コウタは残りの10分間電車の中であたしにもたれるようにして座って、心地良さそうだった。








< 38 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop