恋はとなりに
ある日、さくらとアニキが二人でいた。
土曜の昼下がり、母親は台所にいて、お茶を淹れていた。
さくらはダイニングテーブルにいてアニキと向かい合わせに座っている。
さくらの嬉しそうに笑う顔を見て
俺は立ち尽くした。
見とれていたのかもしれない。
部屋から降りてきて輪に入ろうとダイニングに向かったけど、
部屋の入り口で立ち止まってしまった。
あの笑顔
あの笑顔を俺に見せてほしいのに、
俺にはあんな顔したことない。
その時、俺はさくらに恋してる、と気づいた。
恋だと気づいたら、もう失恋していた。
さくらはアニキに夢中だったから。
急に苦しくなってきた。
輪に入らず、部屋に戻ろうとしたら
「コウタ。お茶飲む?」
と母親に言われて、母親は俺の返事も聞かずお茶をさくらの隣の席に置いた。
仕方なくさくらの隣に座った。
「今起きたの?」
さくらが無邪気に聞いてくる。つぶらな瞳で見つめてくるのが逆に切なかった。
「うん。」
素っ気なく返事をしてから、お茶の入ったマグを持って席を立ち部屋に戻った。
止める者はいなかった。