恋はとなりに
工藤と別れたことが周りに知れ渡ったころ。バレンタインがきて。
本命らしきチョコを5つもらった。
その中の一人町山ゆめと付き合うことにした。
なんで付き合うことになったかというと。
他の子は、チョコを受け取ってください。というだけで終わって。
付き合ってください。と言ってきたのは町山ゆめだけだったのだ。
たったそれだけの理由だけど。
工藤に振られて少しモヤモヤしていたからタイミングよかったと言ってもいい。
でも
と、もう一人の俺が言う。
「さくらが好きなくせに。」
って。
町山ゆめはショートカットで、可愛らしいさを武器にしているような子、
工藤と違って賢くはなさそう。
付き合い始めて次の日、授業の休み時間に町山ゆめが俺に会いにきた。
工藤もいるから俺は気を遣い廊下に出た。なるべく人のいないところへ行った。
「ねぇコウタくぅん。映画みに行かない?」
「うん、いいよ。」
「じゃあ、今度の土曜あけといて。」
「あ、土曜は約束があるから。」
と俺が言うと町山ゆめはたちまち機嫌の悪い顔になった。
「なんで、彼女より大切な用事って何?何何何何????」
彼女って言ったってまだ1日なのに。って言おうと思ったけど、やめた。
「友達と遊ぶんだよ。俺、彼女も大事だけど、友達も大事だから。」
と、言うと。フンと言ってどこかへ行ってしまった。
続く自信がなくなった。
来週までもつかな。
でも帰り、また町山ゆめはやってきた。
「コウタくん、一緒に帰ろう。」
何事もなかったかのような笑顔に、うっすら疑念を抱いた。
「うん。いいよ。」
なんだかいやだったけど、断るとまた面倒くさそうでいいよと言ってしまった。
もうすでに別れたい気持ちがあった。
帰りの駅で電車を待つ間俺はチャンスだと思い、言った。
「あのさ、俺町山のことよく知らないんだよ。よくっていうか全然。」
「うん。」
町山は俺の腕に自分の腕をからませながら無邪気に笑っている。
「でさ、付き合うって言ったけど、友達ってことにしてくれない?」
町山は腕をほどいた。
そして無表情になった。
「それ、どおいうこと?」
けっこう低い声が町山の口から出てびっくりした。
いつもの声はなんだったんだ。
「お願いされたからつい、いいよって言っちゃったけど。なんかまだ付き合うとかピンとこなくて。」
町山はうつむいてしまった。そしてしばらくすると歩きだして改札を出て行った。
俺はじっとその背中を見送っただけ。
電車がくると、気にせず乗った。