恋はとなりに
でも、またさくらに奈落の底に突き落とされる。
(付き合おうと思ってたのに……)
って、あいつはさらっと言いやがった。
普通言う?そんなこと!
告白してきた相手に、間違っても言わない。
言ってはいけないんじゃないのかな。
数年後、再会したときに言うなら、まだいいよ。
全然違う。最近の話で言うの信じられない。
しかも(気が変わった……)って付け足しやがった。
言うなバカやろ!
なんにも悪気なく言ってくるしほんと悪魔みたいなやつ。
このまま嫌いになれたら楽なんだけどな。
さくらは俺のこと何とも思ってないらしく、普通に話しかけてくる。
ちょっとは気まずい空気感じろよ。
迫ってみて、ドキドキさせるはずが、こっちの方がドキドキしちゃって。
冷蔵庫に追い詰めたあと、ドキドキしながら部屋に戻ったのに。
悪魔のようなさくらがやって来て、無邪気に話しかけてくる。
なんにもわかってないってほんとに怖い。
それとも、全部わかっててやってるのかな……
そんな考えもすぐに掻き消した。
俺がそっけない態度とってるからさくらはどこかへ行ってしまう。
優しくしたいのに……
その日も夕方、大学の男友達に送られて帰ってきたさくらを偶然見て優しくしたい気持ちはどこかへいってしまった。
日曜の朝、さくらの部屋から出てきたのはアニキだった。
天地がひっくりがえるほど驚いた。
開いた口が塞がらず、アニキを指差した。
アニキは無言で、両手で(まぁまぁ)となだめるような仕草をしながら下に降りて行った。
顔を洗ったり、コーヒーを飲んで落ち着いたアニキはようやく口を開いた。
「さくらがいるの知らなかったんだよ。昨夜友達と飲んでて、こっちの方が近いからタクシーで帰ってきてさ。酔ってたからさくらに気づかなくて……。何でさくらがいるの?」
アニキは俺にコーヒーを差し出しながら一気に喋った。
「おじさんとおばさんが旅行に行ってる間、うちに泊まることに……。」
俺はコーヒーを一口飲んだ。そしてソファに腰かけた。
「そうなんだ~。で、うちの母さんたちは?」
「それは、群馬のおばさんがギックリ腰で看病しに行った。」
「大丈夫か?二人で。」
「大丈夫だよ。」
俺は自信なく答えた。
特に問題はない。