恋はとなりに


家に帰るとシチューのいい香りが家中漂っていた。

そういえばカケル君さっき何か言いかけてたな。

と思いだし、カケル君のいるキッチンへ入った。


「いい匂いね。」

「さくら、どこ行ってたんだよ。」

「あ。」

彼氏が出来たこと言った方がいいのかな……。

「あ?」

カケル君が聞き返した。

「あたし、彼氏出来た!」


あたしの突然の発言にカケル君は持ってたお玉を落として、シチューが飛び散った。


「キャー、大丈夫?」


あたしはキッチンペーパーで壁に付いたシチューを拭きながら聞いた。

カケル君も落としたお玉を拾った。

「驚かせるなよ。なんだよ、急に。彼氏出来た?いつ?」


「今だよ。河瀬君に呼び出されたから行ってみたら、告白されたの。それで、付き合うことにしたんだよ?なんか変?」


「河瀬かぁーあいつ良さそうな奴だもんな……。びっくりしたよ。さくらに彼氏か。」


床や壁を拭き終えてカケル君に目をやると、カケルがシチューに醤油を大量に入れようとしていた。

「カケル君!!」

「え、なに?」

「醤油、入れすぎじゃない?」


醤油を計量カップに溢れさせていた手が止まった。

「あ………………りがとう。教えてくれて。隠し味に入れるはずが、これじゃ醤油味のシチューになるとこだった。」

我にかえったカケル君は醤油をちょっとだけ鍋に注いだ。



「でもさ、付き合うって何するの?」

「何もしなくてもいいんだよ。一緒にいればさ。」

「あたし、河瀬君のことずっと友達だと思ってたの。」

「それが何?」

「付き合ったら急に手とか繋いだりして、距離が近くてスッゴい変な感じがする。」


「それはさー、距離はゆっくり縮めないと急ぐとロクなことないよ。」

「そうだよね。やっぱり経験豊富な人は違うね。参考になる!」


「そうだろ?俺に何でも聞いてくれ。」

「あ、そういえば。カケル君あたしに何か言おうとしてたよね?」


「え、そうだっけ?」


「出掛ける前。さくら、俺さ……って言ってたよ。なんだったの?」


「えー思い出せないから大したことじゃないんだろう。」





< 89 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop