恋はとなりに
それぞれの恋愛
河瀬君と付き合って一月たった。
何てことのない毎日だった。
トキメキもドキドキもなくて……。
ワクワクもハラハラもない。
けど、河瀬君は少し落ち着いてきた。
なので話しやすくなったのは助かった。
心が近づくと体の距離も近づくような気がして警戒していた。
それでも時々手を繋ぐようになった。
手を繋いでも特に何も感じなかった。
初めての彼氏はこんなものかと、諦めに似た感情をいだいていた。
でも河瀬君はあたしのことを大好きでいてくれて、それが伝わってくる。
だから気持ちにこたえたいと思っていた。気持ちの答え方はわからなかったけど、一緒に居たいと言ってくれるのでその希望は叶えてあげたいと、できるだけ一緒にいることにしていた。
河瀬君もあたしを大切にしてくれた。
手を繋ぐ以上のことはしてこないし。
あたしのペースに合わせてくれる。
日曜には映画を観に行ったりした。普通の恋人のようなデート。
でも回りの恋人たちはとってもとっても楽しそう。
なんか違う……。あたしと河瀬君だけちょっと違う気がする。
いや、あたしだけ違うのかも……。
一月経って、おじさんとおばさんはこちらに戻ってきていた。
でもカケル君は帰らなかった。客間の和室に寝泊まりしている。
帰りたくなくなってしまったと言っていた。
お父さんとお母さんのいない暮らしにも慣れてきた。
なんか変な気分だけど。
コウタは変わらず優しい。
河瀬君と会って帰ってきて、優しいコウタといると胸が痛む。
胸が、痛くなる。
カケル君を見てるだけでも胸が痛む。
河瀬君に対する罪悪感からなのか、と解釈している。
ある日曜日。洗車しているカケル君の手伝いをしていた。
「今日はデートいかないのか?」
カケル君が聞いてきた。
「今日は都合が悪いみたい。何も言われなかったな。」
「さくらからは誘ったりしないのか。」
「しないよ。だって……。」
言いかけた言葉を飲み込んだ。
雑巾がけしていた手も止まった。
「だって、なんだよ。」
カケル君は意地悪そうに笑いながら聞いてきた。
「いや、いい。」
自分で自分の本音に驚いていた。
これを口にしたら、もう終わりな気がした。
だって会いたくない
そう言いそうになったのだ。大切にしている河瀬君に対しての本音が会いたくないだなんて。