眼鏡越しの恋
「アンタ、昨日のこと忘れちゃったの?眼鏡のない素顔の祥子にみんなあんなにびっくりしてたのに」
「・・・え、それが原因?」
確かに昨日は体育の時間に眼鏡が壊れて、不本意ながら素顔を周囲に晒すことになった。
それで確かにみんなびっくりしていたみたいだったけど。
「でも今日はちゃんと眼鏡掛けてるし・・・」
「は?だから?眼鏡掛けてたって、もう祥子が超美人だってことは周知の事実なの!だからみんな祥子のことが気になって仕方ないんじゃない」
「・・・そ、そうなの?」
イラッとした顔を隠そうともせず、美香が早口で言った言葉に私は圧倒されて、つい声が小さくなってしまう。
「ホント、アンタって鈍感って言うか意識がなさすぎると言うか・・・」
そんな私に美香は大袈裟に溜息を吐きだした。
「祥子」
教室に近づいた私を不意に呼ぶ声がして。
その声に思わず笑顔で振り向くと、そこには期待通りの人がいた。
「匡、おはよう」
教室のドアのそばに立っていた匡に駆け寄ると、匡はフッと目を細めて笑顔を見せてくれた。
「おはよ」
ちょっと低めの落ち着いた声で返してくれた挨拶の言葉に、心が甘く掴まれた。
「眼鏡の調子はどうだ?」
「大丈夫だよ。見え方も問題ないし、修理が終わるまで何とかなりそう」
昨日一緒に眼鏡屋さんに行ってくれた匡。
代替えの眼鏡のことを心配してくれるその優しさに嬉しくなって、私はにっこりと笑って答えた。
そんな私に匡も笑顔を深めてくれて・・・だけど、すぐに何かを感じたようにチラッと私の後ろの方へ視線を投げた。
「チッ」
さっきまでの優しい笑顔だったのに、急に機嫌が悪くなったのか、匡は眉間に皺を寄せて小さく舌打ちした。