眼鏡越しの恋
急に態度の変わった匡の様子に私は「え?」と目を丸くして匡の視線の先に顔を向けた。
そこには数人の男子生徒がいて。
匡に睨まれて不自然に目を逸らしていた。
「匡・・・あの・・」
「瀬能君、おはよう。朝からご機嫌斜めね」
私が匡に駆け寄ったから、後から来る形になった美香が意味ありげな笑顔を浮かべて匡に声を掛けた。
機嫌の悪くなった匡に動じることもなく、こんな風に声を掛けられるのなんて、美香くらいじゃないだろうか。
・・・美香って確か匡のファンだって言って、あんなにキャーキャー騒いでいたのに。
今ではその欠片もない。
「あぁ、久保・・・おはよう」
声を掛けられて美香に視線を移した匡がボソッと挨拶の言葉を返した。
さっきの男子生徒達を睨む視線とは違うけど、美香に向ける匡の視線はどことなく憂鬱そうだ。
「ここに来るまでの間のこと、詳しく報告しましょうか?」
そんな匡にもお構いなしの美香はニヤリと口角を上げて意味深なことを口にした。
詳しく報告って別に匡に報告するようなこと、何もなかったけど?
ギョッとした私のことは無視して、美香は匡を見ながら笑顔を崩さない。
その笑顔が無性に黒く小悪魔みたいに見えるのは気のせいだろうか?
「・・・いや、いい。大体察しが付く」
匡はそう答えて美香から視線を外すと、「はぁ~」と重たい溜息を吐いた。
「当の本人がまったく無自覚だから、瀬能君も気苦労が多そうね」
ふふっと可笑しそうに笑う美香にチラッと視線を向けられたけれど、何の話なのかさっぱりわからない私はキョトンとするだけで。
匡にまで憂鬱そうな視線を向けられて、ますますわからない。