眼鏡越しの恋


「祥子。昼休み迎えに来るから。それまで久保から離れんな」


「へ?」


憂鬱そうだった瞳を急に鋭くさせた匡にじっと見つめられて、言われた言葉の意味をすぐに理解できなかった私は間抜けな声を上げて目を瞬かせた。


「一人になるんじゃねぇぞ」


真剣な瞳にじっと見つめられて、私は顔が赤くなるのを感じた。


言い重ねられた言葉にコクコクと頷くと、匡はやっと少し表情を和らげてくれた。


「じゃあ、昼休みな」


そう言って微かに笑うと、クシャッと私の髪をひと撫でして自分の教室へ向かって歩いて行ってしまった。


「・・・・・」


赤くなった顔でその背中を見送っていると、背中にまた周りからの視線を感じた。


「ほら、私達も入ろ」


美香に促されて、小さく頷いた私は美香が開けてくれた教室の中に一歩足を踏み入れる。


その瞬間に教室にいたクラスメート達が一斉に私の方を見て。


「・・・?」


何事かと思って、その視線を受け止めながら私はその場で固まってしまった。


「あぁ、もう」


美香はイラッとした口調で呟くと、立ち止まった私の手を引いて机まで連れて行ってくれる。
そしてクラスメート達を見渡すと。


「みんなまでそんな目で見ない!言いたいことがあるなら、言いに来なさいよ」


強い口調で一言、そう言った。


美香の言葉にクラス中の空気が止まって。
一瞬の沈黙の後、急にみんな騒ぎ出すように私の周りに集まってきた。


「ごめーん!だって昨日の宮野さんにはホントびっくりしたんだもん!」


「宮野さん、眼鏡変えたの?」


「眼鏡ない方がいいのに!!」


周りに集まった女子が口々に勢いよく声を掛けてきて、私は答える間もなく驚いて目を丸くした。


今までに経験したことのない反応と騒がしさにどう対応していいのか混乱してしまう。

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