眼鏡越しの恋
廊下へ出ると、意外と人が少なくてホッとした。
それでもチラチラと見られている気がするけど、とりあえず気にしていない振りをして真っ直ぐ前を見て歩いていた。
「あの、宮野?」
突然、遠慮気味な声に呼び止められて、私は立ち止まって振り返った。
声のした方を見ると、数歩後ろに立っていた男子と目が合って。
その瞬間、目の前の男の子はハッとして視線を彷徨わせた。
うーん、この人誰だったかな?
確か隣のクラスの・・・た・・田川君?
ほとんど接したことのないその男子の名前を私が絞り出すように思い出している間も、田川君は落ち着きなくキョロキョロしている。
この反応はなんだろう?
しかも、こんな風に男子に呼び止められるなんてことは、匡と同じ委員会の戸田君以外には初めてのことで。
どうすればいいのかわからない。
「えっと・・・何、かな?」
声を掛けてきたのに、困ったようにキョロキョロして何も話さないその人に、私は困って用件を聞くために声を掛けた。
私の声に動きをピタッと止めて、彷徨わせていた視線を私に戻した。
「あのさ・・・」
「おい、何やってんだ?」
田川君が私の顔をじっと見て、何か言いかけたのを遮る低い声が廊下に響いた。
「え・・・あ、匡」
「『あ、匡』じゃねぇよ。何やってんだって訊いてんだけど?」
低いその声の方に視線を向けると、眉間に深い皺を寄せた匡が立っていて。
低い声のまま、私に訊ねた。
「田川君が私に何か用があるみたいで」
かなり機嫌が悪く見える匡にドキッとしながら答えると、匡は私の向こうにいた田川君をじろっと鋭い視線で睨んだ。
匡に睨まれた田川君はビクッと肩を揺らして不自然に顔を横に向けた。