眼鏡越しの恋
「コイツに何の用?」
匡が田川君へ向けた声は、私に掛けてきたものよりももっと低い声で。
田川君は勢いよく首を横に振った。
「あ、いや・・・大したことじゃないんだ!だからいいよ、うん」
明らかに挙動不審になった田川君は引き攣った笑顔を無理やり作って、慌てて教室の中へ戻って行った。
「・・・・・」
何が何だかわからずに、呆然としていた私の耳元に、匡が「おい」と不機嫌な声を落とした。
「あ、はい」
我に返ったように顔を上げれば、思ったより近かったその距離に、ドキッとした。
不機嫌な顔でじっと私を睨むその顔でさえ、目を見張るくらい整っている。
私はドキドキと速くなる心臓と火照ってくる頬が恥ずかしくて、一歩後ずさって匡との距離を取ろうとした・・・けど。
「なんで逃げんだよ」
そう言うと、今日は逃げ腰になる私の手を引き寄せた。
距離を取ったはずが、逆にもっと近くなって。
まるで抱き締められている時と同じほどのその距離に、私の鼓動はドクンと大きく揺れた。
「俺が迎えに行くって言ったのに。なんで一人でこんなところにいるんだよ」
逃がさないと私を射抜く強い瞳が言っていて。
私は顔を真っ赤にさせて息を呑んだ。
「・・・。話はゆっくり聞くから。行くぞ」
触れるくらいの距離で匡を見上げる私を匡は一瞬、じっと見つめて、低い声でそう呟くと、掴んでいた私の手を引いて歩き出した。
強く握られた手にお互いの熱を感じる。
私は匡の背中を見つめながら、早足で歩く匡について行った。