眼鏡越しの恋
私はそれまで聞こえていた周りの黄色い声援さえも耳に入ってこないくらい、瀬能君の泳ぎに魅了されていた。
「ねっ!瀬能君、すっごくかっこいいでしょ!!」
その後、何度かプールを往復した瀬能君がプールサイドに上がったのを見て、美香が興奮気味に話しかけてきた。
私はその言葉で我に返って、美香に顔を向けると「そうだね」と頷いた。
「なに、祥子も瀬能君の泳いでる姿にはさすがにヤラレタ?」
「ヤラレタって・・・美香、言い方おかしいよ」
私が誤魔化すように苦笑いすると、美香はじっと私の目を見てニヤリとした。
その表情がとても意味ありげで、私は落ち着かない気分になる。
「何よ・・・・・」
「べっつに?」
美香の視線もアヤシイ笑顔も居心地が悪くて、私は眉を顰めて美香を睨んだ。
「祥子も女の子たっだんだね。私、嬉しい!」
「はっ!?」
美香の言葉の意味が理解できず、私は眉を顰めたまま、思わず声を上げた。
でもなぜか・・・
「祥子、顔赤いよ?」
自分でもその異常に上がった体温がわかるほど、頬が熱かった。
美香はぷぷっと可笑しそうに笑うと、「よかった、よかった」と嬉しそうに笑う。
美香の言っている言葉の意味も嬉しそうな表情の理由も・・・何より、自分が赤くなっているその原因がまったく分からなくて。
私は無言でもう一度、プールサイドを見下ろした。