眼鏡越しの恋
奪われた心
水泳部の練習を見終わった後、彼氏と待ち合わせをしているという美香と別れて、私は一人で昇降口に向かって廊下を歩いていた。
あんなに瀬能君、瀬能君と言ってる割に、やっぱり美香は彼氏のことが好きらしい。
荷物を持って教室から出ていく後ろ姿も可愛く見えるほどだ。
女の子は恋をするとみんな可愛くなるものなんだろうか。
私でも・・・・・?
ふと浮かんだ自分の思考に、誰もいない廊下で私は一人、焦って頭の前で手をぶんぶんと振った。
突拍子もないその疑問を消し去るように。
こんな私が可愛くなるとか、あり得ないだろ。
校内一、“残念”と言われている私なのに。
「お前、何やってんの、一人漫才か?」
突然聞こえてきた思いがけない声に、私は驚いて飛び上がるように後ろを振り返った。
そこにはジャージ姿の瀬能君が立っていて。
その姿にまたびっくりして、私は固まってしまった。
恥ずかしすぎる場面を見られて、何も答えられない。
ただ、頬の熱が異常に熱い。
でもきっと、瀬能君にはバレていないはず。
だって、私の顔は長めの前髪とメガネに隠されているから。
なのに・・・・・
「お前でもそんな風に赤くなるとか、あるんだな」
な、なんでわかるんだっ!?
瀬能君の予想外の言葉に、私は目を見開いて彼を見上げた。