眼鏡越しの恋


他の誰も私の顔を確かめようとする人はいないから、いつも私の表情は伝わらない。
いや、敢えて自分でそうしている部分がある。
私はあまり人に自分の感情を悟られるのが好きではないから。


例外は美香くらいで、他の人はみんなこのメガネと前髪でかわせるのに。


瀬能君にはそれが通用しないということが驚愕過ぎて、私は隠すのも忘れて顔を彼に向けていた。


「お前、今日練習見に来てたけど、なんで?」


いきなり話題を変えられて、私は「え?」とキョトンと瀬能君を見た。


まっすぐに向けられている瀬能君の瞳に吸い込まれそうになる。


強い意志を持った鋭い瞳。


そんな彼の瞳は深い海の様に真っ黒で。
私はその瞳から視線を逸らすことを忘れてしまう。


「誰か目的のヤツとか、いんの?」


「へ?」


意味の分からない質問に私は間抜けな声を出して、首を傾げた。
目的のヤツって・・・今日、見学に行ったのは瀬能君が目的だけど?


「目的は瀬能君だけど?」


思ったままのことを口にすると、瀬能君が一瞬、驚いた顔をした。


「今度インタビューさせてもらうのに、一度も瀬能君が泳いでるところを見たことがなかったから」


そう付け加えると、瀬能君はあからさまに不機嫌そうに表情を変えた。


え、なんで?
不機嫌になるほど、私が瀬能君を見に行ったことが嫌だったんだろうか?



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