眼鏡越しの恋
戸惑う想い
翌朝、私は登校すると瀬能君の教室に向かった。
いつも朝練をしてから教室に来る瀬能君は、始業チャイムギリギリだ。
だから、私は瀬能君の教室の廊下の前で、彼が来るのを待っていた。
周りに女の子が多いのは、私と同じように瀬能君を待っているんだろう。
そんな中で瀬能君に話しかけるのは、結構勇気のいることで。
周りのことを気にしない私でも、ドキドキしてしまう。
そう、このドキドキは周りの女の子のことを意識しているから。
話しかけづらいと思っているから。
瀬能君自身に対してじゃ、決してない。
私は自分に言い訳するように、心の中で繰り返していた。
「あ・・・」
廊下の向こうから、瀬能君が同じ水泳部の男の子と一緒に姿を見せた。
案の定、私の周りの女の子達が色めき立つ。
瀬能君が教室に近づいてくるにつれて、鼓動が速くなる自分が本当にわからない。
「あの・・・」
「おはよう、宮野」
声をかけようとしたその時、瀬能君から挨拶をされて、私は驚きで固まってしまった。
周りもびっくりして、一瞬、沈黙が流れた。
「お、おはよう。あの、これ。昨日言ってた原稿」
「ああ、サンキュー。チェックしとく」
「お願いします!」
私は原稿を手渡して、それだけ言うと、くるっと踵を返して自分の教室へ足早で帰った。