眼鏡越しの恋
放課後、私は早々と学校を出るために昇降口にいた。
今日は委員会もないし、放送当番でもない。
美香は彼氏とデートらしく、すでに帰っていた。
朝の瀬能君の挨拶のせいで今日一日、色んな嫌味を言われて、正直疲れていた。
今までの私なら、どんな嫌味を言われても気にしないのに。
今回はそれを耳にするだけで、なぜか心がモヤモヤとした。
ああ、本当に。
ここ最近、よくわからない感情にばかり左右されている自分が嫌で仕方ない。
嫌な気持ちを吐き出すように溜息を吐いて、下駄箱に手を伸ばしたその時。
「おい」
後ろから聞こえた声に、私はビクッと肩が揺れた。
「・・・瀬能君」
後ろに立っていたのは瀬能君で。
無表情なその顔はどこか機嫌が悪そうな感じだった。
「原稿チェックした。今日、何か予定ある?」
ドキドキする鼓動を意識し過ぎて、私は無言で首を左右に振るだけしかできない。
「俺、これから部活だけど、今日は自主練だから1時間くらいで終わるから。その後ちょっといい?」
「え?」
わざわざ部活の後、私と話しをするくらい原稿の内容が気に入らなかったのだろうか。
不安に思いながら、私はすぐに答えられなかった。
「宮野を待たせることになるのは悪いけど」
私を気遣うようなその言葉が嬉しいと思ってしまうなんて。
「・・・わかった。図書館で待ってる」
高鳴る鼓動を抑え込むように、私は素っ気なくそう答えた。