眼鏡越しの恋



そう、あの時・・・瀬能君に廊下で転びそうになったのを助けてもらったあの時と同じ表情で瀬能君は私を見つめていた。


「しっかりしてるように見えるのに前見て歩かないとか、ホント宮野は面白いよな」


「・・・・・失礼だね、瀬能君・・・あの時はあんなところにバケツがあるなんて思わなかったんだ」


瀬能君がまさかあのことを覚えているなんて思わなくて、びっくりして心臓が激しく暴れている。
言い訳みたいな呟きを返すと、瀬能君も一瞬、驚いた顔をする。
でもすぐにニヤリと口角を上げて笑った。
その笑顔がやけに嬉しそうに見えるのは、私の願望が見せる幻かな?


「メガネかけてたのに、目の前のバケツが見えてなかったのか?」


瀬能君はそう言いながら手を私の顔の前に伸ばして。
私からメガネを外した。
驚く私は逆らうこともできずに、呆然としていた。


「宮野はコンタクトにはしないの?」


「・・・・・私、コンタクトは苦手。ドライアイが酷いから合わない」


私はただ呆然として、うわの空で質問に答える。


私からメガネを外した瀬能君が、私の顔のすぐ目の前で私の目を見つめている。
メガネがないから少しでも距離が遠いと焦点の合わない私。
でも瀬能君の顔も瞳もしっかり見えていて、その距離の近さが嫌でもわかる。


触れるほどの距離で見る瀬能君は、本当に綺麗な顔をしていた。


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