眼鏡越しの恋
「祥子、どうしたの?今日は朝から元気ないけど」
昼休み、一緒にお弁当を食べていた美香に心配そうな顔をして訊ねられた。
私はそんな美香に『なんでもないよ』と言って、乾いた笑いを浮かべた。
美香相手にもうまく笑えないなんて、重症だ。
「私に隠し事なんて、ずいぶん寂しいじゃない!」
私の表情の変化に気付くのが美香。
他の誰もそんなこと気にしないのに、美香は私の心の動きを見逃してくれない。
それは友達としてとても嬉しいことなんだけど、私は時々困ってしまう。
今日みたいな日は特に。
だってどう説明すればいいのかわからないから。
隠すことばかりに慣れた私は素直に心を曝け出すということが異常に苦手だ。
「ホントに何でもないって。今日は朝から頭が痛くて。風邪でも引いたかも」
私は誤魔化しの苦笑いを浮かべて、そう言った。
心の中で美香に謝りながら。
心配してくれる美香の気持ちは嬉しいけど、やっぱりうまく言葉にはできない。
「・・・・・なんかあったらいつでも言って。私は祥子の友達なんだよ」
納得してない顔をして、それでも真剣な顔でそう言ってくれる美香に目の奥がツンと痛くなった。
こんな私を“友達”と呼んでくれる美香のことが心から嬉しかった。
「美香、ありがとう」
素直に言った私に美香が驚いた顔をして、くしゃっと顔を歪めた。
「祥子のバカ」
そう言って涙ぐむ美香に私は作り物じゃない笑顔を向けた。