眼鏡越しの恋
でも瀬能君は普段、とても無口だ。
無駄なことは話さないし、『話しかけるな』と周りにも暗に感じさせる雰囲気がある。
その表情も滅多なことでは崩れないし、私は崩れたところを見たことがない。
人によれば“怖い”と表現されてしまいそうなその雰囲気も、瀬能君の場合は違っていた。
『大人っぽくて素敵!』
『クールでかっこいい!!』
『その硬派なイメージが堪らない!!!』
と、女子達の評価はかなり高い。
その瀬能君がインタビューを受けるなんて、彼のファンじゃなくても、大ニュースなんだろうな。
わかるけど、そこまで浮かれること?
目の前で嬉しそうに飛び跳ねる美香を見ながら、私は正直、よくわからなかった。
「瀬能君、地区予選で優勝したんだもんね!次は県大会でその次は全国大会!!やっぱりかっこいい男は、出来も違うんだね~」
美香の目はハートの形をしている。
美香、あんた彼氏いるでしょう・・・という言葉は、言わないでおいた。
そう、瀬能君は水泳の地区大会で優勝したのだ。
普段の学校生活ではあまりやる気を感じさせない彼も、水泳となると違うらしい。
瀬能君とは1年の時に同じクラスで、2年3年では別のクラス。
1年の時から、今と変わらない雰囲気だった彼は、水泳部を最優先にしているような人だという印象が私にはあった。
水泳部の朝練を終えた瀬能君は、午前中の授業は寝ていることが多い。
なのに、成績は結構上位だと言うから、天は人に二物も三物も与えているなんて、不公平だ・・・というひがみは置いといて。
瀬能君は帰りのHRが終わると、真っ先に教室を出て部活に向かう。
1年の時のことしか知らないけれど、今もそれとほとんど変わらない毎日だというのは、瀬能君のファンを自称する美香の話からも簡単に想像がついた。