眼鏡越しの恋
「・・・・・・」
黙ったまま何も言えない私を瀬能君はもう一度、ギュウッと強く抱き締めた。
痛いくらいに抱き締められる。
でもその痛みも幸せだと思えるなんて、恋って不思議だ。
そんなことを頭の片隅で思っているなんて、こんな時でも私は可愛げがないなと心の中で自分に呆れた。
でもそれは、そうでも思わないとこの幸せすぎる夢みたいな状況におかしくなってしまいそうだったから。
こんなことが現実にあっていいのか・・・と心のどこかでまだ思っている私がいる。
私は・・・“綺麗”でも“美人”でもないのに。
誰よりもかっこよくて、モテる瀬能君に『好き』だなんて言ってもらえる価値が私にはないと悲観的な私が心の中で呟いた。
「・・・信じてないだろ、その顔」
「え?」
不意に瀬能君が私の顔を覗き込んで、不審げに呟いた。
私が思わず顔を上げると、「やっぱり」と言いながら溜息を洩らす。
「お前、まだ自分のことを不細工とか思ってんの?」
「・・・・・だってそれは本当のこと・・・」
「そんなわけねぇだろ。何度も言ったけど、お前は“綺麗”なんだよ。しかもかなりハイレベル。だからアイツだって急に態度変えたんだろ、お前の素顔見て」
瀬能君の言うアイツが戸田君のことだってすぐにわかった。
さっきの戸田君の行動はメガネを取った私を見たから?
でも・・・なんで??
意味が分からないと首を傾げる私に向かって、瀬能君はもう一つ深い溜息を吐き出した。
「お前、なんでそんなに自分のことを不細工だと思うの?」
「・・・・・それは・・・」
私はその理由を瀬能君に知られたくなくて、言葉を濁して俯いた。
でもすぐに顎を掬うように指先で持ち上げられて、じっと私の瞳の奥を探るように見つめられる。
『話せ』と無言の圧力をかけられて、私は深い溜息と一緒に、ポツポツと過去の話を瀬能君に話した。