眼鏡越しの恋


気付いていないのは、周りの奴らも同じで。
前よりずっと祥子の素顔や表情がわかりやすくなって、内心、気が気じゃなかった俺の心配をよそに、未だに祥子の素顔に気付くヤツはいないようだ。


思い込みというのは、すごいってことか。
髪を短くしても、祥子のことを“残念”だと思い込んでる他の奴らに気付く気配はなくて、少しホッとしていた。


・・・戸田みたいなヤツがいないとも限らないから、メガネは外させないようにしないとダメだけどな。


なんて思いながら、戸田のことが頭によぎって、また少しイライラが心に湧いた。


「あのね、今日の放課後、放送当番代わってほしいって後輩に頼まれたんだ」


祥子が少し眉を下げて、困ったように呟いた。


「引退したんじゃなかったのか?」


「うん、そうなんだけどね。今日、どうしても都合が悪くて、他に代われる人もいないらしくて。私なんかに両手を合わせてお願いしてくるから、断れなくて」


「お人よし」


そう言って、軽く笑いながら祥子の額を指で押した。


俺の触れた場所を掌で押さえて、顔を赤くする祥子が可愛くて仕方ない。


「だって、頼まれるとNoって言えない」


「知ってる。そういうの祥子らしくて嫌いじゃねぇよ」


「なっ・・・」


嫌いじゃない・・・じゃなくて、好きなんだけどな。


ニヤッとして言った俺の言葉に真っ赤になって目を見開く祥子が可笑しくて、可愛くて。
他の奴らが周りにいるのも気にせず、俺は声を上げて笑った。


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