眼鏡越しの恋
私がちゃんと前を見ていなかったのが悪いんだ。
なのに、中野君をこんなに焦られるなんて、申し訳なくて。
私になんて笑われても困るだけかもしれないけど、『気にしないで』という気持ちを込めて、私は目の前の彼に笑いかけた。
「ううん、私がちゃんと前を見ていなかったから。ごめんね?」
「いや、俺の方こそ・・・え・・・?」
言いかけた言葉を不自然に途切れさせて、なぜか言葉に詰まった中野君。
でもその理由に気付くはずのない私は、中野君の手の中にあるメガネを受け取って、溜息を吐いた。
手の中にあるのは、壊れたメガネ。
フレームが少し曲がっていて、片方のレンズが外れている。
その上、外れたレンズは少し欠けている気がする。
思った以上の壊れように、「あぁ・・・」と思わず、声に出してしまった。
「どうしたの、大丈夫?」
私達の様子を見に来た美香が私の背中越しに声をかけてきて、私の手元にあるメガネを覗き込んだ。
「あちゃ~。これはまた派手にイッたね」
「え?」
美香の言葉に、それまでなぜか呆けていた中野君が、飛ばしていた意識を取り戻したように瞬きをした。
「・・・ちょっと、中野。あんた何、真っ赤な顔してんの?」
「え、いや・・・だって・・・」
中野君に視線を向けた美香が、呆れた声を上げると、中野君はすごく焦ったように口を手で押さえながら、一瞬、視線を彷徨わせると、私の顔をじっと見つめた。
「え?」
「ああ・・・そういうこと。まあ、仕方ないか」
視点が合わない私は、中野君の表情がよくわからない。
でもじっとこちらを見ているのはわかる。
どうしてそんな風に見つめられるのかわからなくて首を傾げる私と、目の前の中野君を見比べながら、美香が意味ありげな笑みを含んだ声でそう言った。
「え?何・・・何が仕方ないの?」
「・・・・・祥子は気にしなくていいの」
ふふっと怪しく笑う美香に不安を覚えながら、私は眉を顰めた。