眼鏡越しの恋
「祥子っ、どうした?お前、メガネは?」


俺のところへ歩いてくる祥子へ近づいて、何気に周りの視線を遮るように祥子を背中でかばいながら訊ねた俺を祥子は困ったように眉を下げて見上げた。
視点が合わないのか、不安そうに瞳を揺らしている。
その瞳も表情も、俺の心臓を爆発させるのに十分な威力があって。
ドクンッと大きく鼓動が跳ねる。


こんな人目が多いところで、ソレはやめてくれ・・・マジで襲うぞ。


素顔の祥子に見つめられて、半分理性を失いかけた。



その時・・・




「「「えぇぇぇぇぇーーーー!?!?」」」




教室中から、叫ぶような声が響いた。



「祥子って・・・えぇ!?・・・宮野さん、なの?」


「マジで!?・・・マドンナ??」


「うそっ、あの“残念”な宮野・・・えぇ!?」


そんな声があちこちから発せられる。
俺はムカッとして、振り返ると睨みつけるような視線で教室中を見渡した。
俺の視線がかなりキツかったのか、口々に驚きの声を上げていた奴らが一斉に口を閉ざして、ぴたりと声が止まった。


キツイ視線のまま、もう一度、ぐるっと教室中を見渡して、『黙れ』と無言で伝えると、俺は祥子の方へ視線を戻した。


「で、メガネはどうしたって?」


周りの声と反応にびっくりした顔をして、目をパチパチ瞬かせていた祥子に、できるだけ優しく訊く。
祥子の素顔がバレたことと、その周りの反応に動揺して苛ついたけど、わざわざ俺のところへ来たってことは、何か困ったことがあったんだろう。


俺以外の前でメガネを取らないと約束していたのに、簡単なことでそれを破る祥子じゃないのは、わかっている。


だから、周りの奴らのことも俺の苛立ちも、ひとまず置いといて、祥子の話を聞かなければ、とそう思った。


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