眼鏡越しの恋
祥子の一番仲のいい友達、久保美香は祥子のメガネの奥の素顔に気付いている数少ない人間の一人だ。


常々、祥子の理不尽な噂を払拭したいと思っている節がある。


祥子曰く、久保は俺のファンだったらしいが、そこはよくわからない。
けど、俺が祥子と付き合うようになって、久保に言われたことがある。


『瀬能君が本当の祥子に気付いてくれて嬉しい!祥子は本当はすごく美人ですごくいい子なのに、それに気付く人がほとんどいなくて、ホント悔しいんだよね』


俺が久保の言う“本当の祥子”に気付いて、そういう関係になったってことが、嬉しいと、興奮気味に笑顔で言っていた久保は、本当に祥子のいい友達なんだろう。
祥子にそういう友達がいて、よかったと俺も嬉しかった。


けど・・・・・


久保のこの確信犯的な行動は、俺としては回避したかったんだけど。


メガネがない上に、前髪まで上げていたら、もう祥子の素顔は隠しようがない。
現に、クラス中の奴らのあの反応。


「はぁぁぁ~・・・」


俺は思わず、深い溜息を吐き出していた。


「匡・・・本当にごめんなさい」


俺の溜息を聞いて、祥子がしゅっとして、小さな声で呟くように謝った。
俺の溜息の意味を勘違いしてしまったらしい。


「謝んなよ。メガネが壊れたのも不可抗力だってわかってる。今の溜息は・・・周りの反応が想像通りでちょっと苛ついただけ」


そう言って、祥子の目を見つめながら、まっすぐに伸びた黒髪を撫でた。
メガネのない祥子と視点を合わすために、いつもより顔の距離が近い。
こんなに間近でこの綺麗な顔を見つめると、周りのことなんて忘れて、キスしたくなる。


さすがにヤバいか。


別に俺は見られても構わないけど、祥子は絶対嫌がるだろうな。


そう思ったんだけど・・・

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