眼鏡越しの恋
祥子が俺の言葉を聞いて、まだ目元を涙で少し濡らしたまま、嬉しそうに笑ったから、我慢なんてできなくなった。


チュッと軽くリップ音を立てて、触れるだけのキスを祥子の唇に落とした。


「―――――っ!」


すぐに離した唇を祥子が両手で覆って、湯気が上がりそうなほど真っ赤な顔で目を見開いている。


周りから女子の叫ぶような声が聞こえて、祥子はますます困ったように眉を深く下げて、赤い顔のまま俯いた。


恥ずかしがってる祥子があんまり可愛いから、俯いた祥子を抱き寄せて、俺は声を上げて笑った。


また女子の叫び声があちこちから聞こえたけど、そんなのはまったく気にならない。
逆に周りの男子に見せつけるように、祥子を抱き締めて、恥ずかしくて顔の上げられない祥子の髪に指を滑らせる。


祥子の素顔に今頃気付いたって、遅いんだよ。
コイツは俺のモノだからな!


ちらっと教室中の男子に視線を送って、無言の圧力をかけた。


「お前、午後の授業大丈夫なのか?」


まだ腕の中にいる祥子の肩を抱き寄せたままそう訊くと、祥子はそろそろとゆっくり顔を上げた。
恥ずかし過ぎたのか、さっきとは違う意味の涙が目元に溜まっている。


ちょっとやりすぎたかなと思いつつ、でもこれくらい当然の牽制だ。


それに、無自覚に俺を煽る祥子が悪い。


なんて、かなり自分勝手なことを思いながら、祥子の目元に溜まる涙をもう一度、指先で拭った。

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