眼鏡越しの恋
「・・・・・じゅ、授業は大丈夫。黒板は見えないけど、先生の話は聞けるから。でも・・・放課後、メガネ屋さんに行きたいから今日は一緒に帰れないかな」


「なんで?」


涙を拭われた祥子は動揺しながらも、落ち着き始めたのかいつもの口調で答えた。
でも俺は祥子の口から出た『今日は一緒に帰れない』の言葉に、首を傾げた。


「なんでって・・・匡は今日も泳いでいくでしょ?私、視界がこんなんだから、待ってられないかもしれないし、メガネ屋さんにも早く行きたいから・・・」


「だったら俺も一緒について行ってやるよ。お前、周りがはっきり見えないのに一人で街中を歩くとか、危険すぎるだろ?」


「え・・・・・でも、自主練・・・」


「そんなの1日くらいやんなくたってどうってことねぇよ。俺も一応、引退した身だしな。誰も文句も言わねぇって。それよりお前を一人で帰らせる方が無理だから。何があるかわかったもんじゃねぇ」


俺の言った言葉には、素顔の祥子に襲う(?)危険も含まれているんだけど、そこにはまったく気づかない祥子はびっくりしながらも嬉しそうな笑顔を見せた。


「ありがとう。正直言うと周りの状況がよく見えないからちょっと不安だったんだ。匡が一緒に来てくれるなら安心だね。嬉しい」


そう言って綻ぶように笑う祥子は、マジで可愛すぎる。
俺の理性も簡単に吹っ飛ぶレベルだ。


「うわっ、可愛い」


背中で隠しているはずの祥子の笑顔に気付いた誰かが、思わず漏らした言葉に、ぴくっと反応してしまう。


可愛いって、コイツは俺んだからな!


イラっとして、声のした方を振り返って睨むと、言ったヤツがしまったと言う顔をした。


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