眼鏡越しの恋
「・・・あの、瀬能君」
「・・・・・何?」
今度は私の呼びかけに気づいてくれたのか、閉じてた瞼を薄く開けて、瀬能君が私を睨むように見ながら、不機嫌そうに答えた。
「・・・・・、コレ。今度のインタビュー内容の原稿。事前にチェックしてもらってもいいかな?」
瀬能君の迫力に私は一瞬、気後れしてしまった。
でもここで挫けるわけにはいかないから、私は手に持っていた原稿を挟んであるクリアファイルを瀬能君の前に差し出した。
「わかった」
瀬能君は短く返事すると、私の差し出したクリアファイルを受け取る。
そして原稿に目を落としたかと思うと、一瞬で顔を上げた。
私を見上げるように見た瀬能君の鋭い瞳に、なぜかドキンと大きく鼓動が跳ねた。
「いつまで?」
「・・・え、あ・・・今週中でいい・・です」
自分のらしくない反応に動揺する私は思わず敬語で答えてしまった。
「そう、わかった。見とく」
「あ、うん。お願いします」
私は止まらないドキドキに、どうしていいのかわからなくなって。
私をドキドキさせる瀬能君の瞳から逃げるように視線を逸らすと、ペコリと軽く頭を下げて教室を出た。
もちろん振り向くことなんて、できずに。
ただ自分の鼓動の速さの意味がわからなくて、慌てていた。
恐るべし、瀬能匡・・・
私なんかでも、あの瞳に間近で見つめられるとドキッとするなんて。
あ、いや・・・見つめられてたわけじゃないか。
瀬能君はただ声をかけた私を見上げただけ。
ただそれだけなのに、過剰反応する自分がホントに理解不能だった。