眼鏡越しの恋


目的のショッピングセンターに着いて、メガネ屋さんのある二階に続くエスカレーターを上がる。
エスカレーターに乗る時、一瞬、段差がよくわからなくて、躓きそうになった私を匡がグッと手を引いて支えてくれた。
そんな些細な彼の優しさが嬉しくて堪らない。


「ありがとう」


笑顔で見上げた私を匡も柔らかな笑顔で見下ろして、「ああ」と小さく答えた。


「あ・・・そうだ。あのね、今から行くメガネ屋さんに私の・・・ちょっとした知り合いがいるんだけど、あんまり気にしないでね・・・変な人だけど」


「あ?」


ゆっくりと上るエスカレーターの上で、私は思い出したように隣の匡にそう言うと、匡は少しだけ眉を顰めて、不思議そうな顔をした。


私がいつもお世話になっているメガネ屋さんは、県内でも大手のチェーン店で。
私がそこでメガネを作っている理由は、その“知り合い”がいるからだ。
今日もそこにいるだろうその人を思い描きながら、私は小さな溜息を吐いた。


「知り合いって?」


「え・・・あぁ、あのね・・・」


「あら、祥子ちゃんじゃない。平日にこんなところに来るなんて珍しいわね」


匡に訊かれて答えようとしていた私の言葉を、ちょうどお店の前にいたメガネ屋さんの店員の女性が遮るように声をかけてきた。


エスカレーターを上りきったすぐ目の前が、目的のメガネ屋さんだった。

< 90 / 111 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop