眼鏡越しの恋
「あ、木内さんこんにちは」
匡への説明の言葉を思わず呑み込んで、声をかけてくれた女性に挨拶をした。
匡は不思議そうな顔をしたままだったけれど、何も言わずに私のすぐ隣に立って私達を見ている。
木内さんの前で匡と手を繋いだままなのが少し恥ずかしくて、離そうと繋いでいた手を緩めるけれど、匡は離してくれる気がないみたいだから仕方なくそのまま繋いでいた。
それを目聡く見つけた木内さんが、「あら」と呟いて、意味ありげな笑みを口元に浮かべた気がした。
メガネがないからはっきりと見えないけど、木内さんの私達に向ける視線が興味深げな気がするから、たぶん気のせいではないと思う。
「えっと、メガネが壊れてしまったので見てほしいんですけど」
私は恥ずかしくなって、早口でそう言うと木内さんは一瞬、クスッと吐息を零すように笑った。
「それは大変ね。今、呼んでくるからあそこで座って待っていて」
お店の奥にあるカウンターを向いて、指差しているであろう木内さんはそのまま更に奥の事務スペースに入って行った。
「知り合いってあの人?」
木内さんがいなくなって、匡が少し身を屈めて耳打ちするように小さく訊いてきた。
小声だからが、耳元で聞こえる匡のいつもより少し低めの声にドキンと鼓動が跳ねる。
「ううん・・・私が言ってたのは別の人」
「・・・そう」
頬を赤くして、ぎこちなく答える私の目をじっと見つめる匡は少し訝しげだ。
「あのね、匡・・・」
「祥子、お待たせ。メガネ壊れたって?」
匡にちゃんと説明しないと・・・と言葉を発しかけた私はまたしても呼びかけられた声にそれを遮られた。
お店の奥から出てきて、気軽に私の名前を呼んだその男の人を見て、隣に立つ匡の纏う空気が冷たくなった気がした。