眼鏡越しの恋
「あ・・・うん」


説明する前に現れてしまったことを不味いと思いつつ、私は隣の匡を気にしながらその人を見て頷いた。


「ちょっと見せて」


そう言われて、匡の手を離してカウンターまで行こうとした私の手を、匡にすかさずギュッと強く握られて。
びっくりして見上げた匡は怖いくらい無表情で、カウンターの中にいるその人を睨みつけていた。
そして、手を繋いだまま私を引っ張るようにゆっくりとカウンターに近づく。


「ぷっ」


そんな私達を見て、カウンターの中のその人は可笑しそうに吹き出した。
匡がそれにぴくりと肩を震わせて、ますます不機嫌な雰囲気を醸し出す。


もうっ、ちょっとは気を遣ってよ!


そう思いを込めて、カウンターの中にいる彼を睨むけれど、まったく気にしないその人は、ニヤニヤと笑いながら、私達に目の前の椅子に座るように言った。



「じゃ、壊れたメガネ、見せてみて」


そう言われて、私は胸ポケットに入れていたメガネを取り出して、彼に手渡した。


「あぁーあ、コレは酷いな。フレーム歪んでるし、レンズも欠けてるじゃないか」


「ごめん・・・」


思わず謝った私に向ける匡の視線が鋭さを増した気がして、私は嫌な汗が背中を伝うのを感じた。


これを冷や汗って言うんだな・・・


なんて、頭の片隅で冷静に思う自分に嫌気がさす。

< 92 / 111 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop