眼鏡越しの恋
「そう?コンタクトにした方が可愛いと思わない?」


更に質問を重ねるその人は、どこか挑発的な言い方をする。
二人のやり取りに慌てる私をよそに、匡は静かに、でも確実に不機嫌な低い声で口を開いた。


「メガネをかけていても十分綺麗だし、可愛い。だから祥子がしたくないなら、わざわざコンタクトにする必要はねぇ。それに・・・本当のコイツがどれだけ綺麗かは俺だけが知っていればいい」


「・・・・・・・・」


不機嫌な低い声でゆっくりと紡がれた匡の言葉に、私はこんな状況だと言うのに嬉しくて堪らなくなった。
前にも言われたことがあったけど、匡が本当にメガネをかけてる私をそんな風に思ってくれていたんだってことが、すごく幸せで心をギュッと甘く掴まれてような気がした。


「ふっ、そうはっきり言われると、こっちが照れるわ!」


匡の言葉を聞いて、我慢できないとばかりに目の前の彼が噴出した。
真面目に答えてくれた匡は、馬鹿にされたと思ったのか黙ったまま彼を睨みつけている。


「ちょっと、いい加減に・・・」


「でもそこまで言ってくれるとは、祥子、お前想われてるねぇ・・・うん、お兄ちゃんとしてはすごく嬉しいよ」


「・・・・・・・・・・は?」


文句を言いかけた私の言葉を遮って、大げさに『うんうん』と頷きながら言い放った彼の言葉に、匡が数十秒たっぷりと間を開けて、小さく訊き返した。


「えっと、何君だっけ?とにかく、俺の可愛い妹にそこまで惚れてくれてるのは、嬉しいよ」


「・・・そうじゃなくて・・・お兄ちゃん?妹??」


匡は『?』だらけの顔をして、さっきまでの不機嫌な声ではなく、素の彼の声で目をパチパチと瞬かせている。
そんな匡に今度こそ、思いっきり噴出した彼・・・正真正銘、私のお兄ちゃんは可笑しそうに目に涙まで溜めて笑い続けた。

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