嘘つきキャンディー
いち。
表と裏
「アンタ、最っ低…!!」
悲鳴にも似たそんな台詞と共に、嫌味なくらい青く澄み渡った空を背景に、彼女のその白い手が大きく振り上げられる。
あ、これは痛いかも…
なんて思ったのとほぼ同時に、私の左の頬に鋭い痛みが走った。
目の前の彼女は泣いている。
確か、隣のクラスの野々宮(ノノミヤ)さん。
多分彼女よりも、今は私の方が痛い。
でも、この人が泣いてるってことは、私が悪者なんだろう。
「今ので気がすんだかな。」
私よりも随分背が高い彼女を見上げて、私はニッコリと笑う。
それがまた彼女の神経を逆撫でしたらしい。
今度はカッと彼女の顔が赤くなって、変に力が入っているせいか上がった肩は小刻みに震えている。
「アンタねぇ…。自分のしたこと、」
「だってそれって私が悪いのかな。」
彼女の言葉を遮って、私は続ける。
驚いたような、呆れたような表情で私を見つめる彼女に。
「私、知らなかったんだもん。波瀬(ハセ)くんに彼女がいただなんて。
だって私が彼女なんだと思ってた。」
野々宮さんの眉がどんどん歪んで、パッチリした大きなその瞳からは、次々と丸くて綺麗な滴が頬に筋を描きながら落ちていく。
「大丈夫だよ。私まだ波瀬くん好きじゃないから。
ゴメンね、返すね。」
そう言い終えたら、また同じ頬を叩かれた。
さっきよりももっと痛い気がするのは、単純に二度目だからだろうか。
…なんかピリピリするんだけど。
「やっぱりアンタ最低よっ!死ねっっ!!」
野々宮さんはそんな捨て台詞を吐いて、私を残して行ってしまった。
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