嘘つきキャンディー
「じゃあね、カメ男。
私バイト行くから、また明日ね。」
「あ、そっか。
うん、じゃあね。頑張って。」
目を細めて笑うカメ男に背を向けて、私は切符を改札に通した。
私のバイト先は、電車に揺られて約10分。
地元とは全く反対方向の、しかもバイト先の最寄り駅からも中々離れた場所にある。
少々不便ではあるが、おかげで私を知る地元の人間や学校の関係者にバレることはない。
例えもしバレたとしても、他言するものはまずいないだろう。
何故なら私の店に来るような人間は、大体人に言えないような趣味、或いはフェチを持っている可能性が極めて高いからだ。
そう。私のバイト先、それは……、
「お帰りなさいませ、ご主人様ぁ。」
語尾にハートがつきそうな甘い声で、たった今来店したお客様に極上の笑顔を向ける。
ミルクティー色の綺麗に巻いた髪を耳の横で二つに結んで、頭には白い猫耳付きのヘッドドレス。
フリフリの若干アニメの影響を受けていそうな、淡いピンクのメイド服。
メイド喫茶『cream.』の看板メイド、みるくたんとはこの私。
「ご主人様、お食事のお時間でございますにゃあ。」
「んー、決めらんないなぁ。みるくたんのオススメわぁ?」
「みるくのオススメですかぁ?
えーと、『ご主人さまランチ』かぁ、『あまえんぼうにゃんこのオムカレー』かぁ…、
あっ!デザートは『みるみるくれーぷ』がオススメですにやぁ。」
「じゃあ『あまえんぼうにゃんこのオムカレー』と『みるみるくれーぷ』とホットコーヒーお願い。」
「かしこまりましたぁ。ではご注文を繰り返させていただきますにゃあ。
『あまえんぼうにゃんこのオムカレー』1点、『みるみるくれーぷ』1点、ホットコーヒー1点でよろしいですかにゃあ?」
「にゃあ!」
「にゃあー!」