嘘つきキャンディー

「じゃあね、カメ男。
私バイト行くから、また明日ね。」

「あ、そっか。
うん、じゃあね。頑張って。」


目を細めて笑うカメ男に背を向けて、私は切符を改札に通した。


私のバイト先は、電車に揺られて約10分。

地元とは全く反対方向の、しかもバイト先の最寄り駅からも中々離れた場所にある。


少々不便ではあるが、おかげで私を知る地元の人間や学校の関係者にバレることはない。


例えもしバレたとしても、他言するものはまずいないだろう。

何故なら私の店に来るような人間は、大体人に言えないような趣味、或いはフェチを持っている可能性が極めて高いからだ。



そう。私のバイト先、それは……、


「お帰りなさいませ、ご主人様ぁ。」


語尾にハートがつきそうな甘い声で、たった今来店したお客様に極上の笑顔を向ける。


ミルクティー色の綺麗に巻いた髪を耳の横で二つに結んで、頭には白い猫耳付きのヘッドドレス。

フリフリの若干アニメの影響を受けていそうな、淡いピンクのメイド服。


メイド喫茶『cream.』の看板メイド、みるくたんとはこの私。


「ご主人様、お食事のお時間でございますにゃあ。」

「んー、決めらんないなぁ。みるくたんのオススメわぁ?」

「みるくのオススメですかぁ?
えーと、『ご主人さまランチ』かぁ、『あまえんぼうにゃんこのオムカレー』かぁ…、
あっ!デザートは『みるみるくれーぷ』がオススメですにやぁ。」

「じゃあ『あまえんぼうにゃんこのオムカレー』と『みるみるくれーぷ』とホットコーヒーお願い。」

「かしこまりましたぁ。ではご注文を繰り返させていただきますにゃあ。
『あまえんぼうにゃんこのオムカレー』1点、『みるみるくれーぷ』1点、ホットコーヒー1点でよろしいですかにゃあ?」

「にゃあ!」

「にゃあー!」
< 10 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop