嘘つきキャンディー
もはや人語とは言えない会話を顔の横で手を丸める猫ポーズで交わして、私は短いスカートをヒラヒラ揺らしながらキッチンの方へと注文を伝えに行った。
ここでのバイト歴は約半年。
しかし私目当てのお客様は数知れない。
ハッキリ言って天職だ。
「みるくたぁーん!チェキ撮ろぉ。」
「はぁい!少々お待ちくださいにゃあ!」
お客様から直接声をかけられ、私はすでに撮影ブースに移っている彼のそばへ急いで駆け寄る。
店の向かいにあるアニメ専門店の袋を抱えたこのお客様も、私目当ての常連の一人。
「みるくたんは本当可愛いなぁ。」
「ご主人様はいつもみるくのこと誉めてくれて、優しいにゃあ。」
「本気で言ってるんだよぉ!」
そうだろう。だって私は実際に可愛い。
私はお客様が右手で作った未完成のハートに自分の左手をくっつけてハートを完成させ、お客様に笑いかけた。
その後もいつも通り接客をこなし、バイトを終えたのは夜の22時を過ぎた頃。
まだ明るかった空はすっかり深い藍色に変化し、昼間よりもひんやりした空気が身体を包んだ。
夜になると飲み屋街に変化するこの場所は、この時間になっても静かになることはない。
今のバイトに不満はないが、この店の立地に関しては大いに不満がある。
酔っぱらいに絡まれそうで、いつも少し怖いのだ。
私はこの飲み屋街をさっさと抜けてしまおうと、できるだけ早足で駅までの道を急いだ。
しばらく歩きやっと飲み屋街を抜けると、一気に人通りの少ない踏み切りに出る。
それはそれで怖いけど、ここまで来ればもう駅は近い。
私は少し安心して、いつの間にか早くなっていた心臓を落ち着けた。