嘘つきキャンディー
遠くの方で車のクラクションが聞こえる。
急に静かになったせいか、周りの音が目立ち始めた。
どこかで犬が鳴く声。
並ぶ住宅から聞こえる微かな生活音。
そして、荒い息づかい…。
気のせいじゃない。
しかも段々近づいてきている。
安心したのも束の間、私は歩くスピードを早めて、とにかく後ろは振り返らないようにした。
しかしスピードを早めれば早めるほど、向こうもどんどん距離を詰めてくる。
あぁ、どうしよう…
そうだ警察、
カーディガンのポケットからスマホを取り出し、受話器のアイコンを震える指で押そうとした瞬間、
反対の腕を誰かが掴んだ。
「……み、みるくたん。」
荒い息づかいと共に吐き出される、お店での私の呼び名。
「あ…、」
どうしよう…。上手く声でない。
「みるくたん。僕だよ。
君のご主人様。」
いやいや、どのご主人様だよ…。
なんて、声が出ない割りには頭は冷静に思考している。
いや、冷静でないからこんなどうでもいいことを考えてしまうのかもしれない。
「さぁ…、お家に帰ろう。」
耳元でそう囁かれた時、私の中で何かがプツンと切れた。