嘘つきキャンディー
「き、キャアアアアァァァァァッッ!!!!!」
今まで生きてきた中でこれ程の大声は出したことがないってくらい、とにかく叫ぶ。
同時に掴まれた腕をブンブン振り回すけれど、そこはさすがに男性の力には敵わず、離れてくれない。
「どっ、どうしたのみるくたんっ?!
僕が分からないの?!?!」
「そういう問題じゃねええぇぇぇっ!!!!」
全く的外れな事を言う男に乱れまくった言葉で反論すると、男は気が動転したのか、私の身体を後ろからいきなり抱き締めた。
「こ、こんなのみるくたんじゃないぃぃぃ!!!」
「そう思うなら離してええぇぇぇっっ!!!」
半泣き状態になりながら、男の身体ごと自分の身体を左右に激しく捩る。
あぁ、私きっと殺される…
そう覚悟して、頭の中で明日の新聞に『美人女子高生、山中に遺体』の見出しが躍る所まで想像したその時、
何かがぶつかるような強い衝撃があったかと思うと、私にさっきまでしがみついていた男はいつの間にか足元で苦しそうに踞っていた。
何が起こったのか頭の中で整理がつかず、思わずそこに転がっているストーカー男と、恐らくストーカー男の物であろうアニメ専門店の袋を凝視していると、今度は別の手が私の腕を引っ張る。
わ、冷た…
「おいっ!ボーッとしてんじゃねぇ!行くぞっっ!!」
「え…、」
知らない男の人の声がして固まると、そんなのお構いなしにその場から誰かが私を連れ去った。
風に乗って私の鼻腔を擽るコロンの香りは、どこかで嗅いだ覚えがある気がした。