嘘つきキャンディー
「なるほど。まぁ、これで分かったわ。
つまりあの男は、お前の客ってことだ。」
「私のっていうか…、私のお店のお客さんです。」
「どっちも一緒だろ。」
いいや、全然違う。
“私の客”っていう表現を使うと、一気に如何わしくなる。
私はこれでも処女だ。
「まぁ、いいや。
これで脅しの材料は揃ったな。」
「お、脅しっ?!」
「少し聞こえが悪いですね。
取引にしましょう、と り ひ き。」
ちょいちょい戻る“矢野先生”の口調が怖い。
そしてそれに似つかわしくない、邪悪な笑顔も。
彼から距離をとろうと少し身を引くと、肩に回った彼の腕がその分私を引き寄せる。
だ、誰か助けて…
「清水さんのこと、黙っててあげましょうか。」
「え……、えっっ?!」
「その代わり、お前も黙ってろよ。」
「な、何を…?」
「俺の本性。」
私はこくこくと首を縦にふる。
「それと、俺に必要以上に関わるな。」
「勿論!」
「あと、今のバイトは辞めろ。」
「……えっっ?!」
今度はふるふると首を横にふった私を、彼はギロリと睨み付けた。
蛇に睨まれた蛙とは、今の私の状態を指すのだろう。
彼の腕の中で、カチンと固まる。
「えっっ?!じゃねぇよ。
あのストーカーはお前の客なんだろ。」
「でも、ただのお客さんで…、」
「バカか。お前それ本気で言ってんの?
あんなことがあった今じゃ、もうただの客じゃねぇよ。」