嘘つきキャンディー
4月に入ってまだ間もないこの時期に、私は高校三年生になって一発目の呼び出しをくらった。
今まで幾度となく似たような呼び出しに応じてきたけど、彼女達は私を呼び出すとき、何故か決まってこの場所を選ぶ。
渡り廊下を挟んで、高い校舎に囲まれた中庭。
今は放課後だからかそうでもないが、その渡り廊下にはやっぱり野次馬がチラホラいる。
あーあ、新入生もいるのに…
早速私のこと広まっちゃったじゃん。
その野次馬達からは、『サイテー』とか『またかよ』とかそんな声が聞こえる。
自分で言うのもなんだが、私はかなりの嫌われものだ。
特に女子からは、イジメに近い嫌がらせを受けるくらいには嫌われている。
彼女達が何かある度にこの場所に私を呼び出すのも、わざわざ人目のつくところで、大勢の人に私のしたことを知らしめる為ではないだろうか。
彼女達の、ささやかだけど精一杯の仕返し。
しかしそれが思いの外効果があるようで、彼女達の思惑通り、順調に私は孤立していっている。
私は極々小さなため息を吐いて、渡り廊下の方へと歩みを進めた。
まるでモーゼの如く野次馬達の間に道ができて、私を通してくれる。
その先にたった一人だけ、何だか胡散臭い笑みを浮かべた人物がその道を塞ぐように立っていた。
「モテる人は大変ですね、清水(シミズ)さん。」
「あはは。先生にまで見られちゃった。
でも何だか先生に言われると、ちょっと嫌味っぽいかも。」
「正直な感想ですよ。」
先生につられて私もヘラっと笑う。
矢野梓(ヤノ アズサ)。今年入った新卒の化学教諭兼、私のクラスの副担任。
その芸能人にも引けを取らない美貌で、入って早々生徒からは絶大な人気を集めている。
ちなみに、この間誕生日を迎えたばかりの23歳。
クラスの女子が騒いでいたから、嫌でもこの人の情報は耳に入ってくる。