嘘つきキャンディー
次の日の昼休み。
私は取り敢えずバイト先に、今日は休むことを伝えた。
昨日先生に車で家まで送ってもらってから、暫く考えたけれど、やっぱりまだ辞める決心は固まらない。
だけど先生の言っていることも、十分理解しているつもりだ。
あの時私をストーカーしていた男は、確かに“私の客”と言っても過言ではない。
何故なら彼は、私の出勤日には必ず来店する常連だ。
昨日だって、一緒にチェキを撮った。
つまりそんな奴にバイト先を知られている以上、あそこで働き続けるのはかなりのリスクが伴う。
でもあそこ楽しいし…
あぁでもないこうでもないと悩んでいる内に、考えるのが嫌になってきて、私は自分の机に頭を突っ伏した。
ゴンッと鈍い音を立てて、次第にジンジンとした痛みがおでこから広がっていく。
「…真名子、今日変だよ?」
その様子に、ついに見かねたカメ男が、遠慮がちに声をかけてきた。
私はゆらゆらと頭を上げ、心配そうに眉尻を下げているカメ男をじっと見つめる。
あぁ、言いたい。
昨日あったことを洗いざらい全て話してしまいたい。
口を開きかけたその時、
教室の入口から、化学の教科係である山本(ヤマモト)くんが私の名前を呼んだ。
「清水さーん。矢野先生が今から化学準備室来てってー。」
「あ、はーい。今行くねー。」