嘘つきキャンディー
なんというタイミング…。
まさか私が他言しないように、盗聴器的なものをつけて見張ってるとか?!
あの悪魔ならやりそう…。
なんて思いながらもすぐに席を立って、私を呼んでくれた山本くんにすれ違い様にお礼を言う。
昨日の今日で一体何を言われるか…。
正直会いたくない気持ちをぐっと押し殺して、私は化学準備室に向かった。
化学準備室は中庭を通る渡り廊下を渡って、向かいの校舎に入った所のすぐ左にある。
こちら側の校舎にはクラスの教室がないからか、基本的に人はあまりいない。
そのせいか、廊下の空気も私達が普段居る校舎に比べて少し冷たい気がする。
私は化学準備室の前で小さく深呼吸をすると、覚悟を決めて扉をノックした。
中からは『はい』と、落ち着いた声の短い返事が聞こえる。
「…失礼しまーす。」
扉を開けて中に入ると、そこは日当たりが良くて廊下よりもずっと暖かかった。
その中でも一番暖かそうな窓際のデスクに、白衣を着た矢野先生がこちらに背を向けて座っている。
「あ、あの…矢野先生。」
「わざわざ呼び出してすみません。
どうぞそちらに掛けてください。」
振り返った彼は丁寧な言葉でそう言うと、デスクのすぐそばにある丸椅子を引き寄せて、私に勧めた。
浮かべている笑顔も、いつもクラスの女子にキャアキャア騒がれている爽やかなものだ。
あ、あれ…?
もしかして昨日のあの悪魔は夢?
いつまでも扉の前で突っ立ったままの私を、目の前の矢野先生爽やかver.は不思議そうな表情で見つめる。