嘘つきキャンディー
優しい人
「真名子、最近バイト行ってないね。」
そうカメ男が言ってきたのは、私がリュックに教科書を詰めているときだった。
まだ早い時間だからか、放課後にも関わらず教室は生徒たちで賑わっている。
「でも、今日は行くよ。」
「そうなの?何で?」
「何でって…、」
あの日。
矢野先生に化学準備室に呼ばれた日。
あの時についた嘘が、どうしても私の中で引っ掛かっていた。
だって、あの人があんな顔をするから、罪悪感が芽生えてしまったのだ。
おかげで、あれから私は少しおかしい。
なんだかあのバイトに行くことが、すごくいけないことのように思えてしまって、
先生を裏切ってしまう気がして、
私は先生を裏切りたくないなんて、そんなよく分からない理由でバイトを休んでいた。
だけど今日は、さすがに行かなくては。
いい加減、ちゃんとしよう。
「バイト、辞めようかなって…。」
「え、辞めちゃうの?
真名子あのバイト好きじゃなかったっけ。」
「好きだけど…、この間お客さんにストーカーみたいなことされたから、」
「えぇっ?!ストーカー?!」
突然そう叫んだのは勿論カメ男ではなくて、前の席で同じく帰り支度をしていた化学の教科係、山本くんだった。
「清水さん、それ大丈夫なの?」
「あ、うん。大丈夫だよ。」
カメ男と話す時よりもワントーン上がった声で答える。