嘘つきキャンディー
「真名子、告白されるかもね。」
『また修羅場だ』と、カメ男はおかしそうに笑う。
「それは、困る…。」
「……え?」
さっきまで笑っていたカメ男が、今度は驚いた顔で私を見ていた。
「…え、何。どうかした?」
「いや、だって…。真名子って“来るもの拒まず、去るもの追わず”って感じじゃなかった?」
「いや、まぁそうだけど…、」
…あれ?本当だ。
いつもなら『それもいいかもね』なんて軽く流して、告白されたらされたで適当に付き合っていた。
なのに今は、一体何に困ると思ったんだろう。
「真名子、やっぱり変だよ。」
「え、何が?」
「野々宮さんと修羅場になった日。真名子、あの次の日から何か変だよ。
特に矢野先生に呼び出された後なんか、ずっと心ここにあらずって感じだった。」
カメ男は、少し苛立っているような口調で捲し立てた。
いつも穏やかな彼女が、珍しく早口になっている。
「別に、矢野先生は関係ないよ。」
「……矢野先生が関係あるの?」
しまった、と思った。
この前だって矢野先生の前で墓穴を掘ったくせに、またカメ男の前で同じように口を滑らせている。
「大体真名子、先生のこと“矢野先生”なんて呼んでなかったよ。
“矢野”って、呼び捨てだった。」
「別にいいじゃん。だってあの人怖いんだもん。」
「やっぱり矢野先生と何かあったんだ。だってあの先生が怖いなんて、聞いたことないよ。」
普段よりも饒舌な彼女に、私は少したじろいだ。
カメ男はこういう時、変に勘が鋭い。