嘘つきキャンディー
実は私は、この人が少し苦手だったりする。
口調は柔らかく優しくて、表情だっていつも笑っている。
だけどそれが、私にはどこか不自然に感じる。
一言で言えば不気味。もう一言付け加えるなら怖い。
「では、先生。
女の子達の視線がなんだか痛いので、私はもう帰りますね。」
私のこの一言に周りの空気が一瞬でピリッと張り詰めて、更に彼女達を刺激してしまった。
多分私のこういう可愛くない所も悪い。
わざと彼女達を遠ざける方法を選んでしまう。
「あ、清水さん。その前にココ、」
「へ…?」
帰ろうと先生の横をすれ違った瞬間、手首を引かれた。
仄かに鼻腔をくすぐる、大人っぽい爽やかなコロンの香り。
同時に、先生の体温がひんやりとそこから伝わる。
冷た…
手首は掴まれたまま、男の人にしては白くて長い指が、私の左頬に触れた。
「血、出てます。」
「え…、ち?」
……血っっ?!
『引っ掻き傷みたいですよ』なんて呟きながら、先生は自分の白衣のポケットを何やら探っている。
あの時、二度目のビンタを野々宮さんから受けたとき、確かに感じたあのピリピリとした痛みは、やはり気のせいではなかったらしい。
恐らく彼女の爪が、たまたま私の左頬を引っ掻いたのだ。