嘘つきキャンディー
「駐車場、ちょっと離れてるけど清水さんも一緒に行った方がいいよね?」
「あ、はい。ご一緒してもいいですか?」
言いながら店長についていくと、誰かに後ろから手首を掴まれた。
その冷たい感覚に、ゾクリと背筋が凍る。
「おい。」
「……え?」
聞き覚えのある低音に振り返ると、物凄く機嫌の悪そうな表情で矢野先生が立っていた。
Tシャツにカーディガン、シルエットの細いデニムというラフなスタイルで、明らかにプライベートですといった感じだ。
しかも矢野先生の隣には、もう一人黒髪の綺麗な顔をした男の人が、私を珍しいものでも見るような目で見つめている。
「え、え、えっ?!な、何でここに…、」
「この辺に住んでんだから、居て当然だろ。」
ギロリとその深い茶の瞳で睨まれて、私は『ひっ』と短く声を漏らした。
だ、だってこの人、超機嫌悪いっっ!!
この人の背負っている禍々しい空気に、完全に私の後ろにいる店長は怯んでいる。
「あ、あの…、清水さん。この迫力のあるイケメンは…、」
「……今私の手首を掴んでいる方は、うちの教師です。」
「えぇっっ?!」
店長は私の背中に隠れて、『体罰とかしそう…』とかなり失礼なことを呟いた。
「あの、先生…。何か用でしょうか。」
「何かも何も、お前俺にバイト辞めたって言ったよな?」
「………。」
「言ったよな?!」
「は、はいっっ!!」
どうやらその事で怒っているらしい。
矢野先生は私の返事を聞くと、今度は店長の方へと視線を逸らした。