嘘つきキャンディー

「……そっちの男は?」

「あ、えと…、ぼ、僕はこの店のて、て、て、店長をしてましてっ、」

「ふぅん…。」


矢野先生に睨まれて、店長は何を言ってるのか分からないくらい吃りまくっている。


店長、可哀想に…。


すると、これまで空気だったもう一人のイケメンが矢野先生に声をかけた。


「…梓、取り敢えずその子送った方がいいんじゃない?
もう遅いし、そっちの店長さんも固まってるし。」


黒髪のイケメンは矢野先生のことを“梓”と呼ぶと、本当にカチンコチンに固まってしまっている店長を見てクスクスと笑っている。


お、王子だ!

この人物凄く王子っぽい!!


私の目の前で未だ邪悪なオーラを出している矢野先生とは、同じイケメンでも訳が違う。


素敵すぎる!!


私がこの黒髪イケメンを見て頬を染めていると、掴まれていた手首を矢野先生が引いた。


「ほら、帰るぞ。」

「え?」

「え?じゃねぇ。駅まで送るから行くぞ。」


半ば引きずられながら店長に目配せをすると、ほっとした表情で私に手を振っている。


逃げたな…。


私は仕方なく店長にお辞儀で返すと、矢野先生に大人しく引きずられた。



暫く黙ったまま歩いていたけれど、最初にその沈黙を破ったのは黒髪のイケメンだった。


「ねぇ、名前教えて?」

「へ?」


突然かけられた声に、思わず胸がときめく。
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