嘘つきキャンディー

「じゃあ、本名は何ていうの?」

「し、清水真名子です…。」

「真名子ちゃん!本名も可愛い。」


最後に飛び出した極上の笑顔は、いくら中身が残念でもやっぱり王子様だった。


冷めかけたトキメキが、また甦ってくる。


「僕は黒岩圭人(クロイワ ケイト)。梓とは大学時代からの友達なんだ。
これ、よかったら連絡して。」


そう言ってスマホの上でさらさらと書いたメモを、私に渡してくれた。

そこにはメールアドレスと電話番号が書いてある。


「電話の方が、僕は好きかな。」


さり気無く“電話して。”と言っている。


あぁ、やっぱりカッコイイ…


「……はい。」


恐らく間抜け面で返事をした私に、圭人さんは満足そうに笑った。



その後、圭人さんは誰かから連絡があり呼び出されてしまったらしく、慌てたように元来た道を戻っていった。


どうやら仕事の電話らしい。


「圭人さん、カッコよかった…。」

「それは良かったな。」


すっかり忘れていたその声の主に反応して隣を見ると、未だ不機嫌そうな表情で私を見ている。


矢野先生、忘れてた…。


「お前そんなことより、バイトの件はどういうことだ。」

「……や、辞めましたよ。ちゃんと。」

「いつ。」

「…今日。」


言った瞬間、隣から禍々しい空気を感じとった。


見てないけど分かる。

怒ってる…。
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