嘘つきキャンディー

「はぁ…、」


聞こえたため息にさらに肩を震わせると、先生の爽やかなコロンの香りと共に、僅かな温もりが私の身体を包んだ。


え…、もしかしてこれって、

抱き締められてる…?


理解したと同時に煩く鳴り出した心臓に、私は固まってしまって動けない。


「泣くなって…。」

「だ、だって。矢野先生怖いし…っ」

「悪かったな。」


少しムッとしたような声がする。


いや、いや…!

そういう場合じゃないって!!


このおかしな状況に私の頭はぐるぐると混乱して、もうさっきまでの涙なんてどっかに行ってしまっている。


「…はい、おしまい。」


そう言ってあっさり離れてしまった温もりに、私は少し名残惜しく感じた。


あ、あれ?

なんでだ…?


「今の、セクハラとか言うなよ。」

「い、言いませんよ!」

「泣き止んだ?」

「……っ!!」


先生は私を覗きこむと優しく目を細めて、私の頭をポンポンと軽く撫でる。


どうしよう…、顔が熱い。


「お前、嘘つきなんだか素直なんだか分かんねぇな。」

「先生も、優しいんだか優しくないんだか分かんないです…。」

「俺は優しくねぇよ。」


そうだろうか。先生は優しい気がする。

そうじゃなきゃ、普通こんな風に一生徒を心配してくれない。
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