嘘つきキャンディー
いざ、魔王城へ
バイトを辞めて数日。
ゴールデンウィーク真っ只中の今日の日。
街中の人々が浮き足立っている中、私だけは浮き足立ってはいられなかった。
正直、ゴールデンウィークに浮かれている場合ではないこの状況。
そもそも、自分でも何がどうしてこうなったのかよく分かっていない。
「…清水さんと亀尾さん。なぜあなた方がここにいるんですか?」
口調は柔らかいけれど、鋭く向けられたシルバーフレームのシンプルなメガネの奥に光る冷たい瞳。
笑っているのは口元だけで、その背後には何やら黒いオーラが渦巻いている。(ように見える)
Tシャツにグレーのスウェットパンツ、メガネというTHE部屋着なスタイルで迎えてくれた矢野先生に、私は思わず凍りついた。
「私からも一つ良いですか?
なぜ先生が圭人さんの家に……」
「元はと言えば僕の家です。」
「………!!」
なんだって?!
圭人さんに勢いよく視線を向けると、誤魔化すように少し舌を出して『あれ?言ってなかったっけ』なんて言っている。
テヘペロ、じゃねぇよ!!
聞いてないわ!
私は初めてこの爽やかなイケメンに殺意を抱きつつも、ここまでの私の軽率な行動を悔いた。
あの時簡単に圭人さんの誘いに乗らなければ、こんなことには…
――…それは、遡ること約2時間前。
私とカメ男は、私の元バイト先であるメイド喫茶に来ていた。