嘘つきキャンディー
そもそも無理だ。
会話をするどころか、すれ違っただけで心臓がドキドキ煩いのに。
この感情を何と呼ぶのか、分からないほど鈍いわけではない。
けれど今ならまだ、引き返せる。
相手は教師だ。
このまま必要以上の接触は避け、やり過ごせば、卒業までに面倒事は起きなくて済む。
無駄に傷ついて、迷惑かけて、挙げ句残りの高校生活を棒に降る事だけはしたくない。
そんな思いから、私は今日、不本意ながら先生の代わりにカメ男とここに来ている。
心配してくれている先生へのせめてもの罪滅ぼしに、カメ男と二人、わざわざ人の多いゴールデンウィークの午前中を狙って。
ここまですれば、ストーカーの心配はないだろう。
その前に、私の財布の中身の方が心配かもしれない…。
私はカバンから財布を取り出すと、その中身を見てため息をついた。
先程無事制服は返せたものの、今度は新たな問題に直面している。
今カメ男がストローで美味しそうに飲んでいるアイスミルクが580円。
先程勝手に追加注文していた、『はぴはぴうさぴょんのトロ~リアイス』が700円。
ただのアイスミルクと、ただのバニラアイスにチョコペンで顔を描いて、耳に見立てたクッキーを二つブッ刺しただけのものに、計1280円(税抜)。
プラス、恐らく絶対に撮ると言うだろうチェキ600円と、昼食に絶対食べたいと言っていた『あまえんぼうにゃんこのオムカレー』1200円(全て税抜)を注文したとして…。
私、今日で一体いくら使うんだろう…。
意識が遠退いていきそうになりながら、私は静かに財布を閉じた。
いいや。これは仕方のない出費だ。
こんな根暗で引きこもりのヲタクコミュ障ぼっち女を、ゴールデンウィーク中の街に連れ出すなんて、このくらいしなくてはできない。