嘘つきキャンディー

恨むならカメ男しか友達がいない自分だ。

ついてきてもらう代わりに奢るだなんて、血を吐くくらい嫌だけれど正当な対価なのだ。


そう自分に言い聞かせていると、店内に来客を知らせる鐘が涼しい音を立てて響いた。


「「「お帰りなさいませ、ご主人様ー!」」」


複数の店員が足を止め、入り口に立つお客様を笑顔で迎え入れる。

私も何気なくそちらへ視線を移すと、そこにある見知った顔と目が合った。


「あれ…?真名子ちゃん?」

「……圭人、さん?」


言うが同時に、圭人さんは他の店員から席へ案内される前に、こちらの方へと歩みを進める。


「久しぶりだね。今日はお友達と一緒なんだ。」

「はい。圭人さんは…、」

「梓なら居ないよ。安心して。」


圭人さんはそう言うと、お見通しというように可笑しそうに笑った。


そんなに分かりやすかっただろうか。


けれど、流石。図星だ。

今あの人に会うには、色々と不都合が多すぎる。


「ここ、空いてる?座っても良いかな。」

「あ、カメ男が、」

「い…、いいデスヨ。」


何故か若干カタコトのカメ男の返事を聞くと、圭人さんは私の隣にあるイスを引いて座った。


正面にいるカメ男はどこかぎこちなく、死んだ魚のような目はどこに焦点が合っているのか分からない。

絶賛コミュ障発動中だ。


無理しなきゃいいのに、と思うけれど、カメ男なりに頑張りたいようだ。

こう見えてカメ男は、自分のコミュ障を気にしていたりする。
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